Ⅳ 湿式伸線用潤滑剤のマメ知識

<<Ⅲ 製品リスス | Ⅰ 潤滑剤の用途・種類>>

  • A.銅と銅石鹸(老廃物)について
    銅粉 銅石鹸 潤滑液を長持ちさせるために
    B.バクテリア
    微生物の生育・繁殖条件 微生物障害 細菌による障害
    防腐剤使用時における注意 潤滑液を長持ちさせるために

    A.銅と銅石鹸(老廃物)について


    潤滑液は使用経過とともにその性能に変化が生じてきます。一般的に液更新直後は泡立ちが多く、使用するにつれて徐々に泡立ちが治まって伸線作業が安定してきます。更に使用期間が長くなると、伸線機内に汚れが目立つようになり、また、ダイスの寿命の低下や線材の変色等が生じやすくなり、液の交換時期になります。 潤滑液が劣化する要因のひとつとして、外部からの混入物である銅粉があげられます。さらにこの銅から生成される銅石鹸、この2つを操作することによって液の寿命は大きく変わってきます。


    A-1.銅粉

    伸線工程で発生する銅粉(Cu)は液中に存在すると、ダイスを通過する際に、線材への傷の原因になり、次項で述べます銅石鹸の生成にも関与しますので、除去が必要になります。 銅粉の除去については、現在ペーパーフィルター式の除去装置を採用していることが多く、フィルターの穿孔粒子径の大きさを変えることにより、捕集効率を調整できるのがおおきなメリットでもあります。



    A-2.銅石鹸

    銅石鹸とは潤滑液成分中の主に石鹸分と伸線工程で発生する銅(イオン)とが反応したものであり、非常に疎水性の高い物質です。銅石鹸は油性が高く、油性剤としての性能を持っているため、発泡が徐々に少なくなり、その増加に伴い伸線作業が安定してくる要素でもあります。ただ、過剰に存在してしまうとキャプスタンでのスリップやダイスやキャプスタンにべたついて付着し、また銅石鹸がダイス部分に付着することにより潤滑液がかからなくなり、断線や変色が発生してしまう原因になることもあります。


    銅石鹸の生成


    この銅石鹸は油性が強いため、タンク内で浮遊物として確認されることが多くあります。 また、浮遊する銅石鹸によりタンク内部に酸素が供給されにくい状態になるため、次項で述べますバクテリアの発生に関与してくると思われます。



    A-3.潤滑液を長持ちさせるために

    潤滑剤の劣化の要因であるこの銅石鹸を除去することが液の寿命を延ばす重要なファクターであると我々は考えております。
    浮遊した銅石鹸(老廃物)は柄杓等により除去していただくことをお勧めします。また追い足しや半量交換の際には、新液の乳化力によりこの老廃物が再分散する恐れがありますので、できるだけこの老廃物を除去されてから投入して頂くようお願い致します。

    B.バクテリア


    湿式潤滑剤の場合、水で希釈して使用されること、また水溶化するために界面活性剤やその他種々の添加剤が油剤成分中に存在し、微生物が増殖するための十分な栄養源が含まれていることなどのために、微生物により様々な悪影響を受けます。


    B-1.微生物の生育・繁殖条件

    微生物が生育・繁殖するためには、温度・水分・栄養分の三要素が必要となってきます。

    ○温度

    一般的なバクテリア・カビが増殖するのに最適な温度は20~40℃であり、伸線加工現場では微生物が増殖しやすい温度条件となっています。
    また、50℃以上の場合ほとんどの菌は生育できませんが、バクテリアの中には耐熱芽胞という熱に強い膜に覆われた殻の中で休眠して生き残り、温度が下がると再び生育を始めるものもいます。

    ○水分

    液体としての水分子が存在する場合は増殖が可能です。但し塩濃度が極端に高い場合は浸透圧の影響で細胞から水分が放出されるため、ほとんどの菌は生育することができません。

    ○栄養源

    一般に、微生物は窒素源・炭素源・無機イオンが栄養源であると考えられます。
    ① 窒素源
    油剤成分中のアルカノールアミンをはじめとするアミン類、各種添加剤中に含まれる窒素化合物を栄養源とします。
    ② 炭素源
    油剤中の基剤である動植物油、鉱油や脂肪酸、エステル類が栄養源となります。動植物油は鉱油と比較すると腐敗しやすく、微生物障害を受けやすいと言われています。
    ③ 無機イオン
    ビタミンなどの補酵素を安定化させるために生物の活動に必要不可欠ですが、多量に存在すると生育繁殖の阻害となります。油剤成分中に存在するK+、Na+、伸線工程で発生するCu2+、Fe2+などが挙げられます。



    B-2.微生物障害

    微生物障害は、腐敗に伴う悪臭により認知されることが多く、エマルジョンブレークという現象により、エマルジョン系の油水分離を起こします。また微生物障害が進行するとpHの低下を引き起こします。特に生育菌中に有機酸等の酸性物質を生成する能力の高い菌、あるいはアルカノ-ルアミン類を資化する能力の高い菌が生育している場合には、pHが大きく低下することもあります。
    微生物障害の主な現象としては、機械・加工物の不良品増加という形で障害現象が現れます。具体的には被加工物の錆、機械、装置の磨耗、欠損、ブラックスポットと呼ばれる黒色物質の製品への強固な付着などが起きます。また、微生物自体が生育して老廃物、死骸などが凝集し、油剤中の不純物である切粉及び分離した油分などが複合して、配管の目詰まり、破裂などの障害が起こることもあります。



    B-3.細菌による障害

    腐敗の始まりとして、まず潤滑液中に適当量の溶存酸素が存在し、生育に酸素が必要な好気性菌と呼ばれる一群の菌が生育します。微生物が呼吸をすることで溶存酸素は消耗されます。
    溶存酸素量が減少すると、好気性菌の活動が低下し、代わりに酸素が無くても生育できる通性嫌気性菌の活動が活発になります。この菌は好気性菌の代謝産物や油剤成分を発酵させることによって増殖を続けます。油剤中は次第に嫌気状態へ移行していき、発酵により乳酸、酢酸、蟻酸などの有機酸が生成し、油剤のpHが低下してきます。
    最後の段階として、酸素の存在しない条件でしか生育のできない偏性嫌気性菌の繁殖が起こり、メチルメルカプタン、硫化水素などの硫化ガスを発生します。更にこれらの揮発性硫黄化合物が金属と化合して黒色の硫化金属を生成し、油剤の黒ずみや錆びの発生原因にもなります。なお、この段階まで障害が進行しなくても、激しい劣化を受けると油剤は使用不能になり、再生はほぼ不可能となります。さらにメチルメルカプタンの生臭い匂い、硫化水素などの腐卵臭、有機酸による酸敗臭などが複雑に混合した不快臭がします。


    細菌による障害


    B-4.防腐剤使用時における注意

    潤滑剤の微生物障害対策として防腐剤を添加しても、微生物障害が改善されない場合があります。特に季節などの環境の変化により微生物が生育し易くなることで、添加量が足りない場合、防腐剤が添加された環境に適応してくる菌、すなわち薬剤耐性菌が出現してくることがあります。この耐性菌は増殖することによって、より過酷な条件で生育・増殖が可能となります。
    これによって今までの使用条件で効果が悪くなることや、全く効果がなくなることがあります。複数種の防腐剤を交互に使用し、菌数の管理により適切な添加量を維持することで予防は可能ですが、発生した場合は現状の別系統の薬剤を使用し、速やかに対策を行うことが必要です。



    B-5.潤滑液を長持ちさせるために

    ラップルは潤滑剤の中でも、界面活性剤をベースとしており、石鹸をベースとしたタイプの潤滑剤と比較すると腐敗しにくい特徴があります。そのため、防腐剤の添加の必要性も低く、長くご使用して頂けます。



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